

西欧の歴史において、古代世界つまりローマ帝国とその文明がどのように衰退し、滅亡に至ったか、また、その後中世世界つまりゲルマン的な封建社会〜東ゴート王国からシャルルマーニュまで〜がいかに成立したか、それぞれの時代に関する書物は数多く、詳細に存在する。しかし、人々の生活は古代から中世に突然、分断的に変化したのではなく、徐々に、気付かぬうちに変わっていったはずである。それを説明する書物を私はここ1年ほど探していた。
本書の著者であるピーター・ブラウンは「事実上一つの研究分野を創り出したといえる人で、いまなお存命している、ごく少数の人間の一人」とも表される、「古代末期」の研究分野を創出した学者である。本書は、古代末期における「社会」と「宗教(カトリック)」について論じており、先ほどの私の命題〜古代から中世へのゆるりとした変容〜を説明している。特に本書は講演の書籍化である為、比較的簡易な内容で、この特殊な時代への入門書として欠かすことの出来ない一冊である。同時に翻訳者の後藤篤子女史による注釈と「読者の為の参考文献」が非常に有用である。
(因みに"Late Antiquity"を「古代末期」と訳すのは後藤篤子女史によるものであり、通常「古代後期」や「後期古代」と訳される物は西洋中心主義的であり、西アジア世界から脈々と続く古代世界を含むニュアンスを持たないため、その様に訳しているとのこと。確かにその方がしっくりくる)
本書には三つの講演(原稿)が収録されている。(以下、酔っぱらって記載しているので内容把握が間違っていたら失礼)
「貧困とリーダーシップ」
本稿では我々がイメージしがちな古代ローマ末期の二極化〜富者と貧者〜にメスをいれるものである。貧者とは経済的な最貧者ではなく、社会的な、西アジア社会に由来する制度的な存在であり、また、カトリック教会は貧者の救済を担いながらもそれは経済的貧者のものではなく中間層のものであったと。
「『中心と周辺』再考」
かつて古代から中世への移行は、古代ローマの遺産を引き継いだ中心〜地中海世界〜から周辺〜東南北のイスラーム帝国、フランク王国への社会システムの移行だと考えられていたが、実は普遍的なカトリック世界のマクロコスモスを各地方でミクロコスモス的に再現していく物つまり中心から周辺ではなく、各地でそれぞれが中心的な普遍社会を作ろうとした物であるとのこと。面白いことに洋の東西を問わず、同時代に仏教も同じような役割を担っていたと。また、中世初期において諸国家が帝国的な活動を行っていたのは古代帝国への憧憬ではなく、生産性が低い故の富の蓄積を目的とした拡大であり、農地の生産性(それは収税の効率性でもあるが)の高まりにより、帝国から封建制へと移行し、その後中世ヨーロッパの拡大はロバート・バートレットがその著書『
ヨーロッパの形成』で言及しいるように「複製というプロセス」(ヨーロッパ北西部の複数の中心から選ばれた基本モジュール〜特許状を付与された都市、大学、修道院組織〜が至るところで複製されたに過ぎない)を経るのみであると。
「栄光に包まれた死」
諸キリスト教における「死」つまりは想像世界の変遷。この世とあの世における境目が如何に変容したか、そしてそれが「罪」という内容によって意味づけられたかを論じている(と思われ。もうキリストの血=赤ワインを1本以上飲んで酔っぱらっているので勘弁してください。)
惜しむらくは、使用されている言葉自体は平坦であるにもかかわらず、本書のはじめに後藤篤子女史が述べられている様に、文章が少々難解である。とはいえ、そのことが本書の価値を損なう物ではないと強く信じる。
ピーター ブラウン 後藤 篤子 Peter Brown
山川出版社 (2006/05)
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ピーター・ブラウン先生の入門書として必携
ラベル: Book, History